Netflix(ネットフリックス)のオリジナルコンテンツである『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』を見てみたところ、筆者が思っていたよりも遥かにSNSを利用した政治活動はひどかった。

そこで、作品内で語られていたこと、描写されていたことを、Facebookの背景を説明した上で記していきたいと思う。

「トランプ氏が勝利した2016年大統領選挙」や「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」は全て仕組まれていた事だったりと、ビックリするはず。

すべては、行動心理学に裏打ちされた戦略だったのだ。

はじめに

2004年にサービスが開始されたFacebookは実名性が売りのSNSで、その実名性が友人と繋がることにおいて他サービスと比較し優位になり、爆発的に世界中へ拡散していった。

フェイスブック
Facebookは今や登録していない人の方が少ないSNSである(貧困国以外)。
Background photo created by natanaelginting – www.freepik.com

2018年の発表によると、Facebookの月間アクティブユーザーは23億8000万人おり、デイリーアクティブ利用者は15億2000万人いる。

実名で登録し友人とつながっていくネットワークで、

  • 仕事
  • 友人関係
  • 生年月日
  • 政治的思考
  • 交際関係
  • 興味対象
  • 学歴
  • 職歴

といった情報を収集できるプラットフォームが、標本として使用できる23億8000万人のデータを扱うとどうなるだろう。何も言わなくても、想像で分かるはず。

この、高度にパーソナライズされたデータを大量に持っていることが広告主に喜ばれるポイントであり、またFacebookの儲けの源泉かつ価値である。

Facebook運営のInstagramに表示される広告
Via, Forbes

予め筆者のスタンスを示しておくと、Facebookへの嫌悪感はさして強くない。そして、無料で便利なサービスを使えているので、むしろありがたく思っている。

というのも、筆者はFacebookへ出すデータを絞っているからだ。InstagramやFacebookへあまり投稿しないようにしているし、Facebook Feedはほぼ見ないようにしている。近況報告や友人へ無闇に「Like」を送るなどしない。

話をFacebookに戻そう。無料で良いサービスを提供するには、多くの費用がかかるので本来大変だ。つまり、FacebookやGoogleは無料で使ってもらっても大きなリターンが出ることが分かっているので、無料で自由に使わせ人を集めているわけ。無料でユーザーを集めることは、簡単なコスパの良い初期投資なのである。

Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が初期に意図していた事は、世界中の人をつなげることであった。また、ザッカーバーグ氏はさして儲けに興味がなかった事が『フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』の中で語られている。

とは言っても、大手ファンドなどから出資を受け上場している会社なので、キッチリと売上を出していかなければならない。

キッチリと売上を出していく手段が、ユーザーへの緻密なターゲティング広告だったのだ。

グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル

Via : Mumbrella

2016年の米国大統領選挙をきっかけに明らかになったSNSの闇。その象徴ともいうべきデータ会社ケンブリッジ・アナリティカと一連の事件に関与した人々を追う。

コンテンツ内で明らかになったこと

米国大統領選挙でヒラリー・クリントン氏に勝利し、晴れた大統領となったドナルド・トランプ氏。日本のみならず世界中でまさかの展開だと言われていたが、実は違法まがいのデータ分析とターゲティング広告により勝率を高めていく、緻密な戦略が背後にあったのだ。

トランプ氏は、「プロジェクト・アラモ」と名付けられたシリコンバレーの才能ある100人からなるソーシャルメディアチームを結成し、

  • どこの地域で
  • どのような人たちに
  • どんな広告を出し
  • どういった思考にさせるか

を全部仕組んでいた。

トランプ氏は、米国大統領になる前からアメリカ人はだいたい知っているような億万長者だった。彼は、さしてお金を持っていないときから不動産で財をなした億万長者であるというブランディングで自身を売り出し、知名度は非常に高い。

↓の本はトランプがビジネスを始めた頃から、有名になることへ大きな労力を割いていたことが書かれている。

また、『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ 』という本が、日本でも2008年に出版されているくらい。

そして、このトランプ氏の大統領選挙の戦略を考え実行していたのが、Cambridge Analytica Ltd(ケンブリッジ・アナリティカ、以降CA)というデータマイニングとデータ分析を行うコンサルティングファームであった。CA社はハイレベルな人工知能技術を駆使し、選挙等大きなイベントの戦略を指揮していた。

CA社は自社のデータサーバにアメリカ人1人あたり5000点のデータを持っているとし、その数は数百万人分であったと言われている。

つまり、トランプ氏の選挙活動が成功した理由は、CA社と組んで行われたSNSへのターゲティングによるデータ分析のおかげだったのだ。

CA社は、1クリック性格診断というFacebookを使用したアプリケーションでユーザーへ回答させ、膨大なデータを集めることでサイコブラフィックスを作成し、ほぼ本人の性格を予測できていた。1クリック性格診断だけで数十万人のデータが集まり、心理プロファイルが作成されたそうだ。

CA社がターゲットとしていたのは、以下のような人言だ。

  • 投票者を決めることが出来ていない人物
  • 政治へ強い興味があるわけではない人物

こういった、意見が揺れておりコントロールできるユーザーへ正確なターゲティング動画広告の配信を行っていく。行動を促すような広告が配信されるのだが、行動は性格に起因し、行動は投票に影響するから。意見を決めかねている人に選択肢ある情報を与えると、何かしら選ぶことができるし、コントロールしやすい。

したがって、テクノロジーの利用で政治力に差が出る事が、如実に明らかとなっている。

CA社はブレグジット(イギリスのEU離脱)にも関与しており、ブレグジットはトランプ氏の選挙への実験だったというのだ。なお、昔からアメリカで有名人だったトランプ氏は、2016年選挙の前から立候補をほのめかしていた。

また、トランプの選挙を指揮したスティーブン・バノン氏は、CA社の副社長(役員)であった。随分と密なコミュニケーションを取れたことだろう。

スティーブン・バノン氏
Via, Washington Post

選挙時に流すターゲティング広告のための、違法まがいのデータ利用を暴露した元CA社従業員の告発者は、CA社をデータサイエンス企業ではなくデータを政治に利用するフルマネージドなプロパガンダ製造機だと呼んでいる。

いまや、SNSを利用すれば民主プロセスである国家の心理を操れる。これは、民族なり、所得なりで国民の間で大きな分断がなされている地域で起こりやすい。アメリカは厄介で、民族的、教育レベル、所得レベルといったあらゆる面で大きな分断が起きている、世界を支配する国だ。

データ分析によって操られていることを民衆は知らん顔をしがちで、これは自分が感化されやすくプライバシーを気にしない事を認めたくないからだという。

なぜ、世界経済の中でもGAFA企業が圧倒的に最強なのかという理由は、データの価値が原油の価値を上回っていることから、人のあらゆる資産につけ込めるとCA社の元幹部は述べている。

この元CA社の幹部は、以前オバマ大統領のもとでソーシャルメディアの運用を行っていた人物。

この人物いわく、CA社では意見を変えられそうな人たちを『説得可能者』と呼んでいた。説得可能者へ投票者を決意させるまで、望む広告を流し続けていく。

ブレグジットや2016年米大統領選挙など以外でデータ分析とSNSを駆使した政治活動としては、トリニダード・ドバゴというカリブの国がある。トリニダード・ドバゴは黒人系とインド系という人種に分かれており、両民族は仲が悪い。インド系の候補者が国を支配したいと考えた。取った戦略は次の通りだ。

  1. 黒人系の若者には、政治活動を何もするな「Do So」という広告をうち、ジェスチャーも覚えさせ一体化させる。
  2. インド系の若者には何もしないことで、親と一緒に選挙へ行かせる。

行動(ジェスチャー)も取らせることで周囲の物にも伝搬させ、共同意識を高めることができる。選挙結果はインド系が勝ち、若者の投票率の差は40%にもなっていた。

Do Sokキャンペーン。腕を組ませるゼスチャーを広告で広めた。
Via, Loop News

ほか、マレーシア、ルーマニア、リトアニア、ガーナ、ケニアなど数多くの首相や大統領の選挙をCA社は強力していたという。

トランプ氏の選挙では、『悪党ヒラリー』という仮想敵を仕立て上げ、ミームである画像をオンライン(掲示板やSNS)に撒く。画像が拡散されていくとき、作成した者のクレジットはつけないので、元のコンテンツ作成者を辿ることはできなくなっていく。

ミームの内容は、「悪党ヒラリーを倒せ」というものだ。皆で同じ事を言わせることで一体感を持たせ、仮想敵への反感を増殖し投票させる。

CA社は本社をイギリスへ置いていたのだが、ユーザーデータの利用は英国に置いて政府の許可を得ない限り違法だった。CA社はデータマイニングで大衆心理を操っていたが、ダウンロードを求めるユーザーへデータを公開しなかった事が犯罪として正式に決定。CA社は倒産することで、当局からの証拠隠滅をはかった。

Crooked(日本語:歪んだ)の「oo」部を手錠にかけた画像などをCA社は拡散させた
Via, thetab.com

テクノロジーの進化は速く、人の理解が追いつかない。CA社は倒産したが、同じような企業が沢山出てくるだろう。

人間が必ず反応する感情は、直感的で刺激的な『怒り』と『恐怖』である。結果的に、Facebookはこれらの感情を広告会社が使えるようにしてしまっている。選挙で極右派が勝利を収める時、かならずSNSでフェイクニュースが拡散される。刺激的なフェイクニュースを見た意見が定まっていない大衆は、感情的になり流され右派へ投票するのだ。

憎悪と恐怖は拡散が速く信じやすいため、報道のエビデンスは確かめずらい。

今や、世界中の人をつなぐ目的であったプラットフォームは兵器と化した。

次の事実は重要な事である。

トランプ陣営は、選挙時590万ドルの広告費をFacebookに使っている。対して、ヒラリー陣営は6万6000ドルだった。その差は、約89.4倍にもなる。

広告費のかけ方が、選挙結果を左右しているのだ。

感想

大衆の心というのは割と簡単に動かせるのだと実感。ただし、キレイな方法で良い方向へ変えるのは非常に難しいと思う。というも、一般消費者は感情的であり、経済合理性では動かないからだ。

彼らが反応するのは、損したくないことであったり、恐怖だったり、憎悪だったりする。なので、消費税の数%増税をギャーギャー騒ぐくせに、社会保険といった高額な徴収システムを指摘出来ない。

SNSは、今や憎悪や恐怖を煽るのに格好のツールとなってしまった。これは、利用者1人1人がツールの使い方を学んだり良い文化を作り上げる必要があると思う。

2020年に迫った、次期米国大統領選挙の心理戦略やどんな広告が流れるか、見ていくと面白いのではないだろうか。

なお、ターゲティング広告には金がかかる。先述したように、トランプ氏はヒラリー氏の約89.4倍もの広告費をかけている。

したがって、日本国内でも情勢が荒れた時には感化されやすい人に刺さる、

  • 過激な事を主張し
  • 頭が良い人たちを周囲に抱えた
  • 金持ちで
  • 有名な人

が、国のトップになってもおかしくないと筆者は考えている。

You May Also Like