人種差別などの否定的な社会ステータスは、異常な遺伝子活性を含む生物学的反応の元凶を作り出すことによって、標的とされる人々の健康を大きく損なう。

寿命と死因を記録したレポートが明確なパターンを示していることは、特段驚くべきことでない。アフリカ系アメリカ人はより早く死亡し、高血圧、心疾患、認知症、末期乳がんなど、多くの疾患を患っているとの報告がある。

研究者たちは、黒人と白人の健康格差で原因となる遺伝的要因を探してきたが、現状その成果は限られている。これまでで最も強力な証拠は、貧困、不平等な医療、人種差別などの社会環境要因を指摘している。

最近の研究によると、多くのアメリカ人が人種的不平等の是正における進歩を過大評価しているようだ。また、ある調査によると、人種差別などの意見を表明することは一般的になっていると認識するアメリカ人(65%)が増えている。

Via:Race in America 2019

人種差別は、単なる『人への否定的な態度や扱い』ではない。人種差別は歴史的にアメリカ社会へ深く根ざしており、政策と実践を通して維持されている。結果として、有色人種は白人とは日常的、組織的に異なる扱いを受けている。

アフリカ系アメリカ人と白人の混血であるApril Thames(エイプリル・テムズ)氏は、ぞっとするような言葉をよく耳にしたという。大学時代、テムズ氏は心理学の分野に興味を持った。これは、偏見、ステレオタイプ、人種差別がどのように生じるか説明する分野だったからだそう。

USC(南カリフォルニア大学)の臨床心理学者として行っているテムズ氏の研究は、社会的要因が生物学とどのように相互作用し、健康に格差をもたらすか理解することへ焦点を当てている。

彼女が共同執筆した最近の研究で、人種差別は病気の主要な原因の1つである『炎症』を促進することが示された。

目立たなくとも定着している価値観

今日の人種差別は20世紀初頭に比べると表面的ではなくなっているかもしれないが、政府の政策や規範、社会制度による不公正な扱い、固定観念、差別的行動は、人種差別がまだ生きていることを改めて思い起こさせる。

この差別的態度は、生活の質を低下させる事に加え、早死にもつながっている。

Via:flickr

例えば、白人の薬物過剰摂取割合は高いにもかかわらず、オピオイドを処方された場合、黒人は白人よりも薬物検査を受ける可能性が高い。

アフリカ系アメリカ人は何十年にもわたって人種差別の圧力を受けており、医療であれ法執行であれ、社会制度に対する不信を高めてきた。

さらに、『*Driving while black』という言葉は、人種差別がアメリカへ深く根付いていることを示している。家を買おうとしたとき、競争相手がいるとして断られる事を想像してみよう。これは、アフリカ系アメリカ人には、あまりにも一般的な経験である。ハーバード大学公衆衛生学部、ロバート・ウッド・ジョンソン財団、ナショナル・パブリック・ラジオによって行われた調査によると、半数近く(45%)のアフリカ系アメリカ人が、家を探したり医療を受けたりする際に受けた差別の経験を報告した。

*Driving while blackは、ドライバーが交通法に違反したためではなく、人種的偏見のために警察官によって運転手が停止される可能性があることを意味する。

Driving while black
黒人であると理由で警察に停車を求められる様子を風刺している画像。Via:StraightFromTheA.com

炎症を引き起こす遺伝子の発現頻度

最近まで、研究者たちは人種差別と健康が結びつくメカニズムを知らなかった。

USCのテムズ氏の研究室とUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)による最新の研究は、遺伝子が関係を説明するかもしれないことを示している。調査の結果、炎症を促進する遺伝子は白人よりも黒人に多く発現していることがわかったからだ。

研究チームは、人種差別の露出が遺伝子発現の理由だと考えている。

テムズ氏は以前、人種差別を助長すること、例えば試験を受ける前に人種を書かせることで『差を意識』させると、アフリカ系アメリカ人は学習、記憶、問題解決などの脳機能が損われることを示した。これは、白人と比較し、アフリカ系アメリカ人の認知症割合の高さを一部説明している可能性がある。

研究者らは、慢性的なストレスがアルツハイマー病など脳疾患の標的となる脳機能(海馬)を変化させることを実証してきた。この研究は、UCLAのSteve Cole(スティーブ・コール)氏が主となって研究してきた、社会ゲノミクスの分野を通じ拡大されてきたもの。

社会ゲノミクスと呼ばれる比較的新しい分野は、遺伝子の機能が社会条件によってどう影響を受けるか、つまり、遺伝子データを利用し社会や経済の問題を解明しようとするものだ。

遺伝子は、特定の状況でスイッチを入れたり切ったり(オン/オフ)するようプログラムされている。しかし、このような活動パターンは環境によって変化する可能性が高い。

ある種の周縁化されたグループは、先天性免疫に関与する遺伝子に異常な遺伝子活性パターンを示す。自然免疫は、体が病原体に対抗し反応する機能。

コール博士は、この遺伝子活性のパターンを『Conserved Transcriptional Response to Adversity(逆境に対する保存された転写応答)』と名付けた。これは、自然免疫を制御する遺伝子が、正または負の環境条件下でどのように動作するかというもの。

経済的不利や人種差別のような環境ストレスが交感神経を刺激し、ヒトの闘争反応を制御すると、遺伝子の行動は変化する。このことは、遺伝子活動をオンにする複雑な生化学的事象を引き起こし、健康上悪い結果をもたらす可能性がある。

『逆境に対する保存された転写応答』は、〈炎症に役割を果たす遺伝子活性の増加〉、〈ウイルスから身体を保護する遺伝子活性の減少〉という特徴がある。

研究者らは、炎症誘発性およびストレスシグナル伝達遺伝子がオンになるパターンは、黒人と白人で異なることを見出している。慢性炎症は身体を老化させ、臓器損傷を引き起こすことから、著者らの所見は特に重要である。

テムズ氏のチームは研究をまとめるにあたり、経済的地位、社会的なストレス、医療へのアクセスなどの健康格差を考慮に入れた。例えば、同様の経済的地位を有するアフリカ系アメリカ人と白人を採用した。また、他タイプのストレスイベントの報告における人種差も検討している。

どちらのグループも、同じレベルの社会的ストレスを報告した。

Photo by whoislimos on Unsplash

この研究では、アフリカ系アメリカ人の方が白人よりも炎症誘発性遺伝子の発現が多い理由は、上述した伝統的な因子で説明できなかった。しかし、人種差別の経験が、炎症を増大させる遺伝子の活性の50%以上を占めていることがわかっている。

この結果は、将来の健康状態を考えるに当たり、どのような意味を持つのだろう。

人種差別は、喫煙と同じように健康上の危険因子として扱われるべきだと考えられる。感染症などの病気を防ぐため体が持っている自然の防御機構を破壊することは、健康へ有意に有害だ。

人種差別に関連したストレスを減らすための施策は、健康に対する有害な影響を緩和できる可能性がある。

我々は、ヒトとして、人種差別による健康上の不平等を永続させるべきでない。研究はアメリカで行われたものだが、『日本生まれの人』以外への差別的態度は日本人の方が強いと筆者は感じている。『ガイジン』という言葉で人を扱う姿勢は、外国籍の人物を大いに傷つけているかもしれない。

本記事を読んだことで、考えや価値観に変化が起きると嬉しく思う。

黒人と白人をテーマにしたもので、事故で全身麻痺となり車いす生活を送る富豪と、介護役に抜擢されたスラム出身黒人青年の実話物語を描いた『最強のふたり』は、ぜひ見て欲しい作品である。

参照:theconversation

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