オフィスワーカーは化粧品の有毒化合物を吸引している可能性が高い

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公害は屋外の問題と考えがちだが、多くの会社員(オフィスワーカー)は、オゾン、二酸化炭素、粒子状物質(SPM)、揮発性有機化合物(VOCs)など、目に見えない浮遊物質を絶えず吸い込んでいる。

これらは、カビ、建材、人間の細胞、ローション、デオドラント、ヘアスプレー、化粧品などのパーソナルケア製品から放出されるガスである。揮発性有機化合物の中には、疲労、集中力の低下、眼、鼻、喉への刺激、癌など健康への影響と関連しているものもある。

VOCs
via ScienceDirect

しかしながら、オフィス中を浮遊するこれらの物質にさらされることが、健康に重大なリスクをもたらすかどうかは未解決の問題だ。

アメリカ史上最も偉大な政治家とされ、ドル紙幣にも使われているベンジャミン・フランクリン氏は、1785年にオランダのジャン・インゲンホッツ医師に宛てた手紙の中で、「どこから来た空気でも、閉じた部屋の空気ほど不健康なものはないと確信している」と述べている。

ベンジャミン・フランクリン
Benjamin Franklin (1706-1790) , North American printer, publisher, writer, scientist, inventor and statesman 79 years old. After Joseph Duplessis [Public domain], via Wikimedia Commons

長年、研究者たちはフランクリン氏の主張を裏付けるため努力してきたが、最近の研究はそれをある程度裏付けているようだ。

パデュー大学の研究者たちは、この種の研究では最大規模のものとして、オフィス環境におけるVOCsの複雑な動態を測定するために、高度なセンサーシステムを利用している。10月にオレゴン州ポートランドで開催された米国エアゾール学会で発表された研究結果は、室内の成分が健康問題を引き起こすことを証明するものではないが、換気性の良いオフィスを設計し、この問題に関する研究を進めるため利用できる可能性がある。

via Purdue University

この研究は、パデュー大学のLiving Labsで行われた。Living Labsは、数千のセンサーと高感度質量分析計を備えた模擬オープンオフィスで、VOCs、オゾン、二酸化炭素、エアロゾルを嗅ぎ分けることができる。

研究者たちは、オフィスの椅子に埋め込んだセンサーを使って、在籍する大学院生20人の状況を追跡した。

パデュー大学の土木工学の助教授であるBrandon Boor氏のチームは、モデルオフィスの空気中のVOCの主要な発生源が人間であることを発見した。呼気、汗、唾液などの化合物2,000種類近くが、単に生きているだけ発生する。

ヒト由来のVOCの濃度は、実験の日中を通して変化しており、平均して午後半ばにピークへ達した。VOC濃度はまた、オフィスが最近清掃されたかどうか、誰かがパーソナルケア製品を使用したかどうか、換気システムがどの程度機能しているかなどの要因にも左右された。

換気システムで外気から入ってきたオゾンガスは、壁や家具などの室内表面や、居住者が残したVOCとの反応性が高かった。研究者たちは、このガスが人間の皮脂と反応して新しいVOCを作り出すことを発見した。

また、皮をむいたミカンがモノテルペンと呼ばれる化学物質と反応し、ナノメートルサイズの新しい超微粒子を生成した(モノテルペンは、香料入りのパーソナルケア製品や洗浄液のような製造された供給源からも得ることができる)。

さらに、研究者たちはパーソナルケア製品からのVOCは、ケアしたばかりの大学院生が到着した朝にピークを迎えることも発見した。D5と呼ばれる化学物質はケア製品に含まれているが、呼気中の主要なVOCの1つであるイソプレンと同程度かそれ以上の濃度で検出され、従業員の『たまり場』では比較的高かった。

Photo by Brandless on Unsplash

研究チームは、D4およびD6と呼ばれる関連化合物も検出したが、これらはD5よりもはるかに低いレベルであった。

「暫定的な結果から、イソプレンとD5はオフィスの空気中に同程度の量が放出されることが示唆される」とBoor氏は言う。

「D5の排出は、居住者が使用しているパーソナルケア製品の量と種類に依存する可能性が高い」

Brandon Boor

Boor氏は、今回の研究結果は、モデル事務所にのみ当てはまるだろうと指摘した。彼のチームは、結果を他の設定にまで一般化できるよう、排出係数の設計に取り組んでいる。

オフィスワーカーは、同僚が生成する二酸化炭素や皮脂、オレンジの皮をむくかどうかまで、コントロールすることはほぼ不可能だろう。

しかし、イェール大学医学部の職場環境医学プログラムの責任者で、呼吸器科医のキャリー・レドリヒ氏によると、彼らは個人用のケア製品を自分で使用することについてはある程度の管理権を持っているという。

レドリヒ氏は、次のように述べている。

「頭痛や喘息が悪化するケースを見ることがある。私は、化学物質に反応し、症状が悪化する患者をたくさん見てきた。職場によっては、症状の原因を断ち切ることができず、仕事を続ける能力に大きな影響を与えることがある」

Carrie Redlich

化学物質のリスク調査

一部の研究では、D4、D5、D6のような化合物(cVMS)は、ヒトの健康にリスクをもたらす可能性があると示唆されているが、大部分の研究は動物を用いて行われており、決定的なものではない。

D4、D5、D6
Figure 1. Chemical structures of the cyclic volatile methylsiloxanes (cVMS) D4, D5, and D6.

D4、D5、D6はすべてパーソナルケア製品に含まれており、D5が最も多い。

動物実験では、D4は妊孕性障害(にんようせい)に、D4とD5は子宮がんに関連している。しかし、米国医療毒性学会の元会長で、現在はコネチカット大学健康センターでコネチカット州中毒管理センターの副医長を務めるチャールズ・マッケイ氏によると、実験は非常に高用量の化学物質が、長期間、異常な状況下で投与されたという。

「これらの実験条件は多くの場合、はるかに低用量のヒトへの曝露(ばくろ)とは、ほとんど関係がない」とマッケイ氏は述べた。

Photo by Ryan Stone on Unsplash

動物を用いた試験のほとんどはシリコン産業がスポンサーとなっており、子宮がんとの関連を示した試験はラットを用いて実施された。産業界の代表者らは、D4やD5への暴露後に子宮がんに寄与する可能性のあるホルモンの機序はヒトとラットで異なるため、前者の研究は後者とは関連がないと主張している。

批判家は、業界とのつながりや独立した研究の不足を指摘する。ドイツのリューネブルクにあるロイファナ大学の化学者で、シロキサンに関するレビュー研究の共著者であるクリストフ・リュッカーは以下の様に主張している。

「懸念すべき事実が見つかった場合、業界は結果を軽視し、ラットを用いた研究結果は様々な理由からヒトとは無関係であるとの主張をメディアで大々的に発表する。これが一般的だ。ラットを用いた研究結果は、少なくとも業界に近く評判を得ている専門誌の特別号に、”後援論文”として掲載されるのだ」

Christoph Rücker

EUは最近、これらの化合物の規制を決定した。EUのREACHプログラムでは、環境リスクを考慮し、D4、D5、D6を高懸念物質として、PBT(難分解性、生物蓄積性、毒性)、vPvB(難分解性で生物蓄積性が高い)と表示している。

2020年1月31日以降、EUはシャワージェル、シェービングフォーム、シャンプーといった製品中のD4とD5の濃度を0.1%に制限する。また、D4、D5、D6をドライクリーニング液などすべての消費者製品と業務用製品に制限を入れることを提案した。

Photo by Adam Wilson on Unsplash

シリコン業界は、このことから訴訟で欧州裁判所を提訴している。

Personal Care Products Council(米国パーソナルケア製品評議会)の主任毒性学者であるLinda Loretz氏と、Silicones Environmental,Health and Safety Center(北米のシリコン化学メーカー90%を代表するアメリカ化学評議会のサブグループ)のシニアディレクターであるKarluss Thomas氏は、米国環境保護庁を含む多くの国の規制機関によって審査された、大量の研究を指摘している。

Loretz氏とThomas氏は、D4とD5は人間の健康に危険をもたらすものではないと述べており、研究の一部は決定的なものではないとの主張だ。

ロイファナ大学のリュッカー氏によると、cVMSとヒトの健康を研究することは『複雑で物議を醸す』という。ヒトでの研究はほとんど行われていない。

「シロキサンの毒性に関する専門家は一握りのみ存在しているが、彼らはシリコン産業の従業員である。業界は、研究結果を公表することもしないことも自由である」

Christoph Rücker

これらの化合物は、約80年にわたって消費者向け製品に使用されてきた。子供は成人よりも悪影響を受けることがあり、ベビー用品中の濃度は比較的高い。

Photo by History in HD on Unsplash

「シロキサン類は、屋内の空気や塵埃における主要な汚染物質の1つである」とニューヨーク州保健局ワズワースセンターの環境保健科学部門の副部長である、Kurunthachalam Kannan氏は述べている。

繰り返すが、これら化合物のヒトへのリスクを評価することは、「時に政治的に敏感だ」とKannan氏は嘆いている。

特定の化学物質が健康へのリスクであるかどうかにかかわらず、オフィスで長時間働く従業員は、少量の新鮮な空気から利益を得ることができるようだ。

オフィスの空調システムが適切に機能していること、時々外の空気に入れ替えたりすることで、シロキサン系化合物へのリスクは大幅に下げることができるのだ。

参照:scientificamerican

Keisuke Kuribara
株式会社Propagation代表取締役。興味対象は、ビットコイン、大麻、ウェブ、金融、生物、心理など。金融から健康、テック、音楽など様々な事について執筆しており、このブログは月間10万PV程度となっております。自身のアウトプットや知的好奇心を満たすことが主な目的です。お仕事の依頼や相談などお気軽にお問い合わせください。
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