人間は世界観に合わない事実を拒絶する ー 正そうとするだけ無駄なのさ


アメリカは、事実上、世界の富を占める経済大国ですが、高度に二極化し、情報に孤立したコミュニティとエリートの格差が広がるばかりです。

保守的な政治ブロゴスフィアは、地球温暖化はでっち上げであり、不確実なので、対応に値しないという思想を持っています。

他のオンラインコミュニティでは、ワクチンフッ化物添加水遺伝子組み換え食品が危険であると言われたりしています。

また、右派メディアは、ドナルド・トランプ大統領が陰謀の被害者であることを詳細に描き出しています。

実際は、どれも正しくありません。

人類が引き起こした地球温暖化の現実は、確定した科学です。

NASAのデータによると、2016年は1880年以来の最も温暖な年であり、世界的な気温上昇の長期的な傾向が続いている。140年の記録の中で、最も暖かい10年はすべて2005年以降に発生しており、最も暖かい6年は直近6年である。クレジット:NASA / NOAA

ワクチンと自閉症の関連が疑われていることは、疫学の歴史の中で決定的に否定されています。

ウクライナをはじめとする多くの問題に関して、ドナルド・トランプ氏の自己弁明的な主張に対し権威ある反論を見つけるのは簡単です。

ですが、多くの人々(高学歴者含む)は、こういった様々な問題に関し、証拠に基づく結論を否定しています。

理論的には、事実上の論争を解決するのは比較的簡単です。専門家が提示する、強力な証拠を示すだけで良いはずですよね。

このアプローチは、問題がサイエンスである場合、ほとんどは成功するでしょう。

しかし、科学的なコンセンサスや証拠が、誰かのイデオロギー的世界観を脅かすような状況を示している場合、上記のようにいきません。

政治的、宗教的、民族的なアイデンティティは、特定の政治的問題の専門知識に関し、受け入れる意思を効果的に予測可能であることが明らかになっています。

噛み砕いて言えば、その人が持つアイデンティティで、その人の行動は予想できるということです。

社会科学者が「やる気のある推論(Motivated reasoning)」と呼ぶものは、自分が好む結論に基づき、受け入れる証拠を決定するプロセスです。

ウェイクフォレスト大学の哲学教授であるAdrian Bardon氏が著書「The Truth About Denial(否認の真実)」で説明しているように、自分が好む情報だけを集める人間の習性は、物理的な世界、経済、実際の出来事に関するまで、あらゆる種類の事象に当てはまります。

否定は無知から生まれるものではない

この現象の学際的な研究は、ここ6〜7年で爆発的に進展しました。

1つ明らかになったことは、さまざまなグループが、たとえば気候変動について真実を認めていないのは、この問題に関する科学的根拠についての情報が不足しているからではないということです。

多くの論争の的になるトピックに関する、専門知識の否定を強くしているのは、単なる政治的思想です。

2015年のメタ分析では、気候変動の事実に対するイデオロギーの両極化が、政治、科学、エネルギー政策に関する知識を持つ回答者の間で、実際に増加していることを示しました。

保守派が気候変動否定論者である可能性は、大卒者の方が多いです。

認知的洗練度や定量的推論能力のテストで最高点を獲得した保守派は、気候科学に関する「やる気のある推論」の影響を最も受けやかったのです。

これは保守派だけの問題ではありません。

研究者の Dan Kahan (ダン・カーン)氏が示したように、リベラル派は、核廃棄物の安全な貯蔵方法の可能性や銃規制に関する法律の効果について、専門家の意見を受け入れる可能性が低くなります。

否定は自然なこと

私たちの祖先は、小さな集団で進化しました。

そのような環境は、協力と説得が、少なくとも世界について正確な事実に基づく信念を持つのと同じくらい、繁殖行動の成功と関係がありました。

部族への同化は、その集団のイデオロギー的信念への同化を必要としたからです。

属するグループ』を好む本能的なバイアスと世界観は、人間の心理に深く根付いています。

人間の自己認識、つまりアイデンティティは、グループでのステータスや信念と密接に結びついています

当然のことながら、人は自分のイデオロギー的世界観を脅かす情報に対し、自動的かつ防御的に反応します。

これは、『専門家』の好きな証言を信用し、一部を切り取り、そぐわない意見は拒否する理由を見つけるという、「確証バイアス」に関与しています。

人は、あらゆるフィルターを通して世界を見ている

政治学者のCharles Taber(チャールズ・テーバー)氏とMilton Lodge(ミルトン・ロッジ)氏は、この反応の存在を実験で確認しました。

彼らは、政治家の写真を提示された時、党派的な人々は「好き嫌い」の感情を示し、誰が写真に写っているかで事実を評価することを発見したからです。

イデオロギーに偏った状況では、偏見が事実に影響を及ぼします。

文化的所属という観点から自分自身を定義する限り、信念を脅かす情報、例えば、工業生産が環境に及ぼすマイナスの影響に関する情報は、自分自身のアイデンティティそのものを脅かす可能性があります。

  • 「オーガニックでないものは健康に良くない」
  • 「ワクチンや遺伝子組み換え食品は危険である」

こういった世界観のイデオロギーにあなたが所属していた場合、安全性に関する科学的根拠に基づく事実の情報を提示された時、個人攻撃を受けたように感じるでしょう。

実際、僕は気まずくなったことが一度や二度ではありません。

歓迎されない情報は、他の方法でも脅威になり得えます。

心理学者であるJohn Jost(ジョン・ジョスト)氏が提示する「System justification(システム正当化理論、システム正当化の信念が心理学的な緩和的機能を果たすという社会心理学の理論)」は、確立されたシステムにとって脅威となる状況が、いかに柔軟性のない思考と閉鎖への欲求を引き起こすかを示しています。

例えば、Jost氏と共同研究者がレビューしているように、経済的困窮や外部からの脅威を経験している人々は、しばしば、安全と安定を約束する権威主義かつ階層的な指導者に頼っているのです。

否定は至る所にある

この種の情動に動機づけられた思考は、歴史的事実や科学的証拠に対する、極端に抵抗したくなる拒絶反応の例を幅広く説明してくれます。

  • 減税は経済成長の面で効果があることは示されているか
  • 移民が多い地域は暴力犯罪の発生率が高いのか
  • ロシアは2016年の米国大統領選挙に介入したのか

予想通り、このような問題に関する専門家の意見は、証拠が党派的であるかのようマスメディアに扱われます。

否認主義的な現象には様々なものがありますが、その背後にある物語は、究極的には非常に単純なのです。

特定の条件下では、集団内で、えこひいき、不安、安定、支配欲といった人間の普遍的な特性が組み合わさって、政治を正当化する有害なシステムになりえます。

集団の利害、信条、教義が、歓迎されない事実情報によって脅かされると、思考は偏っていきます。

そして不幸にも、人間性に関するこれらの事実は、政治目的のために操作されるのです。

気候変動や移民政策のような政治問題を解決するには、事実を提示するだけでは限界があることを示唆しているため、解決は厳しいでしょう。

しかし、否定の現象を正しく理解することは、問題解決へ取り組むための重要な第一歩です。

参照:theconversation

Phohto by おうじ

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